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情報システムコラム

第3回:業務を変える〜ステップ3と驚きの効率化事例〜

業務を変える 驚きの効率化事例

本連載では、私たちPSソリューションズがバックオフィス部門で実践した生成AIの導入プロセスとその具体的な成果、導入時の注意点などについて、5回にわたって詳しくご紹介しています。記事の最後には無料ダウンロード特典もご用意しています。

ステップ3「変える」:実際の業務プロセスを変革する

前回は、当社が実践した生成AI導入の3ステップのうち、「ステップ1:触れる」と「ステップ2:深める」について詳しくご紹介しました。今回は、最終段階である「ステップ3:変える」の内容をお伝えします。

ステップ3は、生成AIを実際の業務プロセスに組み込み、具体的な効果を実現する段階です。プライベートでの利用に慣れ、プロンプト作成のコツを習得した参加者が、いよいよ自分の担当業務で生成AIを活用し始めます。ここでは、セキュリティ要件を満たしながら、どのような業務で、どのような方法で、どの程度の効果が得られたのかを具体的に紹介します。

ワークショップで生成AI利用に適した業務を特定

ステップ1・2を通じて参加者(バックオフィス部門メンバー)が生成AIの基本的な使い方を習得した後、いよいよ実際の業務での活用に移る段階となりました。ただし、単に「業務で使ってみてください」というだけでは「自分の業務のどこで活用すればよいかわからない」「セキュリティポリシーに抵触しないか不安」と迷ってしまう可能性があります。

そこで2025年1月から2月にかけて、バックオフィス部門各部署を対象としたワークショップを実施しました。ワークショップは、プロジェクトメンバーが各部署のメンバーとミーティングし、以下の手順で進めました。

●1. 業務内容の詳細ヒアリング
日常的に行っている業務を一つ一つ洗い出し、作業内容、所要時間、頻度、難易度などを整理します。

●2. 生成AI活用可能性の評価
ヒアリングした業務について、生成AIで効率化できる可能性を「高・中・低」で分類。特に情報収集、文書作成、アイデア出しに関わる業務に注目しました。

●3. セキュリティ要件の確認
各業務で扱う情報の機密レベルを確認し、現在のセキュリティルールの範囲内で実施可能かを判断します。

●4. 具体的な実装方法の検討
実際にどのような手順で生成AIを活用するか、プロンプトの例文作成なども含めて具体的な手順を設計します。

例えば、人事部のワークショップでは、求人票作成業務について生成AIの適用を検討しました。まず従来の作業手順(職務内容整理→各媒体向けの表現調整→入力作業)を詳しくヒアリング。その結果、「各媒体に合わせた表現調整に最も時間がかかる」ことが判明。そこで、基本的な職務内容を入力するだけで、リクナビ、マイナビなど各媒体に最適化された求人票を生成AIが作成する手順を設計しました。実際のプロンプト例文も作成し、「営業職の求人票をリクナビ向けに作成してください」といった具体的な指示方法まで整備しました。

このような丁寧なプロセスにより、各部署で実際に効果の出る活用事例を創出できました。

驚きの効率化が実現! 各部署の成果を詳しく紹介

それでは、各部署で実現した具体的な効率化事例について見ていきましょう。

人事課――求人票作成で95%の作業時間削減を実現

最も顕著な効果を上げたのが人事課の求人票作成業務です。

【業務の課題】
新しいポジションの求人票を作成する際、まず職務内容や求めるスキルを整理し、各求人媒体(リクナビ、マイナビなど)の特徴に合わせて表現を調整し、入力情報を用意する必要がありました。各媒体で文字数制限や推奨表現が異なるため、同じ内容でも複数のバージョンを作成する手間がかかっていました。

【生成AI活用後】
生成を活用することで、大幅な効率化を実現しました。具体的な手順は以下の通りです。
1.自社の基本的な職務内容と求めるスキルの情報を生成AIに学習させる
2.各求人サイト(リクナビ、マイナビなど)の入力画面をスクリーンショットで撮影し、生成AIに提供
3.「このサイトのこの欄にはこの情報を入力せよ」というプロンプトで、各サイトの入力項目に適した内容を自動生成
4.必要に応じて生成された内容を微調整
5.調整済みの内容を各求人サイトにコピー&ペーストで入力

【成果】
作業時間:10時間 → 30分(95%削減)
品質向上:媒体ごとに最適化された表現で情報作成が可能に

【その他の活用例】
・面接候補者のWeb上公開情報調査の効率化
・従業員満足度アンケートの設計と分析
・反社チェック時の情報収集作業

情報システム課――調査業務で25%の作業時間削減

情報システム課では、SaaS製品の機能比較調査業務で大きな効果を実現しました。

【業務の課題】
新しいシステム導入や既存システムの見直しの際、複数のSaaS製品の機能を調査し、比較表を作成する作業があり、多くの時間を要していました。各製品の公式サイトやカタログを個別に確認し、必要な情報を手動で整理する必要がありました。

【生成AI活用後】
比較したい製品名と比較項目を指定し、包括的な比較表の下書きを生成AIに作成してもらい、その後詳細部分を確認・調整する方法に変更しました。

【成果】
作業時間削減:8時間 → 6時間(25%削減)
品質向上:調査時間が圧縮されたことで、本質的な検討や意思決定により多くの時間を充てられるように

【その他の活用例】
・システムUI変更時の即時調査対応
・メール、報告書、提案書の文章添削による社内外コミュニケーションの質向上

総務課――規程作成で62%の作業時間削減

総務課では、新規ルールや規程の作成業務で大きな効果を実現しました。

【業務の課題】
これまでレンタカーの利用ルールがなく、ルールを新たに策定し、申請フォームも用意する必要が生じました。通常であれば、Google検索で一般的な規程を探し、内容を確認して、自社の状況と照らし合わせながら内容を調整するといった作業が必要になります。申請フォームはGoogleフォームで作成します。こうした作業を手動で行った場合、全体で8時間程度は要すると想定されていました。

【生成AI活用後】
生成AIを活用して一般的なレンタカー利用規程の基準を調査し、それを基に自社向けの規程案を生成。その後、実務に即した調整を加えて正式なルールとして整備しました。

【成果】
作業時間削減:想定8時間 → 3時間(62%削減)
品質向上:法的要件や一般的なベストプラクティスを網羅した規程を効率的に作成

【その他の活用例】
・新規取引先登録時の情報収集効率化
・登記申請などの一般的な情報収集作業

情報セキュリティ管理課――ガイドライン作成で50%の作業時間削減

情報セキュリティ管理課では、監視カメラ運用ルールの新規作成で効果を実現しました。

【業務の課題】
新たに設置する監視カメラの運用ルールを策定することになりました。通常であれば、プライバシー保護法制や業界ガイドラインを調査し、自社の状況に適したルールを一から作成する必要があります。これらを手作業で行えば、4時間程度がかかると想定されました。

【生成AI活用後】
生成AIを使って監視カメラ運用の一般的なガイドラインを調査し、それをベースとした自社向けのルール案を作成。それをベースに、法務確認と調整を行いました。

【成果】
作業時間削減:4時間 → 2時間(50%削減)
品質向上:法的要件や業界標準を踏まえた包括的なルールを効率的に策定

【その他の活用例】
・情報収集・調査(新しいアプリやシステムのチェック、過去のセキュリティ事故の確認)

広報課――コンテンツ制作の効率化

広報課では、各種コンテンツ制作業務で生成AIを活用しています。特に画像生成機能を活用することで、それまで外部に依頼していた簡易的なバナー制作を内製化し、コストと時間の両面で効率化を実現しました。

【活用内容】
・配信記事の草案作成
・プレスリリースの下書き作成
・バナー画像の作成

セキュリティを重視した段階的な拡大

これらの成果を実現する上で重要だったのが、セキュリティ要件を厳格に設定しながらも、現実的な効果を生み出すアプローチでした。

当社では社内情報を機密性のレベルに応じて複数段階に分類しており、今回のプロジェクトでは最も機密性の低い一般情報のみを生成AI活用の対象としました。具体的には、個人情報、財務データ、顧客に関する情報などは利用禁止としました。

この制約により活用範囲は限定されましたが、リスクを最小限に抑えながら確実に効果を実感できる環境を構築できました。なお、一般情報のみという制約があっても、レンタカー利用規程の作成や求人票の下書き作成など、実際の業務で大きな効率化効果を得られました。これは、多くのバックオフィス業務において、機密情報を使わずとも業務改善の余地が大きいことを示しています。

ただし、ワークショップで各部署の業務を詳しく分析した結果、機密情報に該当する業務が想像以上に多く、現状の環境では適用が困難な改善案も数多く特定されました。この経験から、よりレベルの高い業務効率化を実現するためには、機密情報も安全に処理できるクローズド環境での生成AI活用が不可欠であることを改めて認識しました。そこで当社では現在、よりセキュアな環境での生成AI活用に向けた準備を進めています(詳しくは連載第4回をご覧ください)。

プロジェクトの総合成果

6ヵ月間のプロジェクトを通じてどのような成果が上がったか、改めて整理します。

【定量的成果】
・導入浸透率:100%(参加者全員が生成AIを業務で活用)
・作業時間削減率:最大95%(人事課の求人票作成業務)
・活用事例創出:各課一つ以上の具体的事例を創出

【定性的成果】
・参加者の生成AIスキル向上
・業務プロセス見直しのきっかけ作り
・他部署への展開可能なノウハウの蓄積

【参加者の声】
「最初は何に使えるかわからなかったが、実際に業務で使ってみると想像以上に効果があった」
「プロンプトの書き方を覚えることで、求める結果を得やすくなった」
「単純作業が減り、より創造的な業務に時間を使えるようになった」

このように、厳格なセキュリティ制約の中でも、着実に成果を積み重ねることができました。第4回では、このプロジェクトで得られた知見を基に、生成AI導入を成功させるための具体的なポイントや注意点、導入前のチェックリスト、そしてサービス選定の考え方について詳しく解説します。

今すぐ使える!ワークショップ用テンプレートの無料ダウンロード

今回ご紹介したワークショップで使ったテンプレートを用意いたしました。記載例もご覧いただけます。自社での実践に参考にしていただける内容となっています。無料でダウンロードできますので、ぜひご覧ください。

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